13歳アニスと35歳大佐でザレッホ火山後話。気持ち暗めな上長いです。
ネタバレ気味でも宜しければ、スクロールでどうぞ〜。
この生まれ出た愚かしい感情に振り回されるなど滑稽以外の何物でもない。
あの導師イオンが亡くなられてしまわれてから、彼女は抜け殻でしかなかった。いつか夜たまたま見かけた時は、まるで闇そのもので。夜に取り込まれ、一体化しそうなほどにどす黒い何かに支配されている顔。夜は彼女にとって闇と契約する時間で、私はそれを興味が従うままに放っておいた。負の感情にどの様に抗うか。今にしろ掛ける言葉もなかった所為かもしれないが。
ただそれは彼女の裏であって、表向きは皆に明るくいつもの顔でいる。私はそれを何も言わず見ていたが、あれで皆に分からないとでも思っているのだろうか。ひきつった笑顔しか出来ない振る舞いが益々皆を心配させるばかりであるというのに。悲しくも人は過去に囚われた途端、うまく笑えなくなるものだ。
賢くもなんて愚かしい子供だと、正直私は思った。随分遠い昔に自分もそうなった事があった。繕いなど無駄だった。起こってしまった歴史など変えられない。だからこそ、前を見て自分の罪を受け入れるべきではないのか。今に最善を尽くすべきではないのか。
本来なら賢い彼女は理解しているはずだが、今回ばかりは頭で割り切れていない様だ。嫌でもその状況を分かって貰えないと、皆に支障をきたすであろう光景が目に見える。そうなる前に手を打っておくこととしようではないか、と。早速寝床へ向かうアニスを廊下で捕まえ、尋問を開始する。心底、私もお人好しなものだ。
「アニース、もう大人のふりをするのは止しなさい。」
最初は甘く、最後は忠告を含んだ厳しい響きで彼女に言い聞かせる。アニスは明らかに私を煩わしいといった表情をしたが、そんな不満をおくびにも出さずわざとらしい笑顔をぱっと私に向ける。
「は……?たいさぁー、何言ってるんですか。いつだってアニスちゃんは大人ですよぉ。」
「もちろん嘘を吐くのも含めてなんですが、ね。じゃないと今に貴方自身が後悔する事になります。」
「はうあ?!まさかこの13年間、後悔なんて微塵もした事ないですよ★」
「実に見え透いた嘘ですねぇ」
「うっ……大佐もしつこいなぁー、もう。さすがに怒りますよっ!」
「どうぞご自由に。この私に口で勝てるのならば、の話ですが。」
あえて嫌味たっぷりに宣言する。これでこの子は必ず乗るであろう事も考えての行動だ。根っから負けず嫌いのアニスはこう言った言葉に弱い。案の定彼女は私の話に乗ってきた。
「貴方は数年すれば嫌でも大人でいる事を必要に迫られるはずだ。
なのに、子供である今大人のふりをするんでしょうかねと言っているんです。」
「じゃ言っておきますけどぉ、大人でいなくちゃ私やっていけません。あんな…」
アニスは次の言葉を告げようとしたところで、とっさに言ってはいけない何かに気づいたのか止めた。自己嫌悪しているのか顔が歪んでいる。
「あんな?」
その先を言えない事情は知っている。意地悪く聞き返し、次に彼女が言わんとしている単語を発する。
「さしずめ、貴方はこう言うつもりでしょう。あんな両親を持ったから、とね。」
「……知ってるなら良いじゃないですか、どうだって。言いたい事があるんならはっきり言えば、た・い・さ。」
「わざわざ遠まわしに言わなくて済んだようですね。やはり貴方だと話が早くて助かります。」
「どっちにしたって私が言うまで問い詰めようとしてたくせに。大佐のいつもの手ですよね。
回りくどいったら……」
ぶつぶつ文句を吐き出す彼女を尻目に構いもせず、私は言葉を続ける。
「私としてはとても気に入らないんですよ、見え見えの無理をする子供がね。
今にこんな状態のままなら皆に支障をきたすでしょう。」
ふと、彼女の言葉の流れが止まり、こちらを向く。
「……私にどうしろって言うんですか?」
冷たい目線で答える彼女は私と同じ鋭さが見え隠れする。自分が彼女を気に入っている理由のひとつはこういう点でもある。例え、一回り年が離れていても認められるべき賢さ。
「そうですねぇ、ここはやはりこの先も改善出来ないのであれば、即刻メンバーを抜けて貰いましょうか。」
「きっついお言葉ですね。……けど、大佐がどう言っても私、抜けるつもりなんてありませんから。」
「ほう、貴方にしては珍しく聡明ではありませんね。」
「イオン様への贖罪とも取れない行動だっていうのは自分でも、分かっているつもりです。
……それでも私は皆とイオン様が見るはずだった未来を見たい。」
「……ふ、大した綺麗事だ。イオン様の意志を告ぐとでも言うんですか?」
「違う。私がそうしたいだけですから。それにイオン様を殺してしまった時、誰も私を咎めなかった。
恨む事も拒否すらもしてくれなかった。アリエッタ以外は。何だかそれから私自身の存在は薄くなってぼんやりで……ぽっかり穴が空いたみたい。」
「それは貴方にとってとても楽な環境ではあった。しかし、同時にそれが罪悪感を薄めていく事となり、現実の存在として徐々にかけ離れていってしまった、と。」
付け加える様に言うと、きょとんと驚いた顔が見えた。少し間が空く。
「えへへ……嫌味なくらいに大佐は私の事何でもお見通しですか。」
引き攣る顔は全く笑えていない。もう仕様がないといった声でアニスがそう答えた。
「ほんとは、頭のどっかで分かってた。大佐の事、もし欺けたとしてもいつかはばれて……前の様な関係には戻れない。多分一緒に居られないっていうのも、分かってました。」
「……分かっていたのにしてしまいましたが、貴方は。」
「最後はせめて裏切るのに言い訳なんかするもんかって思ってたけど…結局出来なくて。
笑っちゃいますよね、今までさんざん何食わぬ顔で裏切ってきて。ルークの事だって
私が責められる立場でもないのに責めてさ。それなのに怖いと思う……だなんて。」
声は誰が見ても分かるほど震えていたが気にも止めずアニスは言葉を続ける。
「心の隅では知ってた。きっと、自分は誰かを騙したくないって。まっすぐ生きてたい、って。」
たどたどしい言葉の羅列は願いの様にも聞こえた。
「……ほんっと馬鹿みたいですよねー。そんな自分まで裏切って、……イオン様までも。」
彼女にしては語尾は弱弱しく発音される。自分を問い詰めているからだろう。俯いてしばらく項垂れている。私はぼんやりと聞いているだけで、何も言わない。無論何か言うつもりもなかった。
「でも、イオン様を亡くして私思ったんです。いつでも大佐はね、本当に有りの儘の私を受け入れてくれてた。」
子供で裏切り者の私とかじゃなくてさ。と付け加えて、俯いてからしばらく経った頃アニスは言った。
項垂れていた頭はいつしか真っ直ぐで貫く目線と共に私の方へと向けられた。
「そうでしたかね。」
「そうですよ。」
その顔は心なしか泣いている様ですでに瞳に水分を含んでいた。錯覚すら覚える気分になる。
「私を認めてくれているからこそ、遠慮なく私を責めるんですよね。私の罪を確認させるために。」
そこまで言って、ついに彼女の感情は内から外へと伝い、涙となって溢れた。愚かしくも悲しい水がぽろぽろを下へ落ちていく。床に小さないくつもの粒が見て取れる。黙ってその様を見つめる私は、ひどく客観的にそして冷静だった。
いつもの関係のままでいたかったから、彼女がいなくなった時本当は探さねばいけなかったはずだ、自分は。けれども、探しはしなかった。他人を慰める事が出来ないのは知っていた上に自分の役目でもないと思った。ルークに任せるのが最良だと判断した。結果、彼女は戻って来たし、前と変わらないはずだった。
ところが、ルーク達の優しさ、いや、甘さは彼女をゆるやかに苦しめて虚無へと誘う原因となってしまった。自分で想像していなかった不具合が変化を生んだ。しまったと気づいた時にはもう、アニスは大人のふりをして負の感情を隠す事を選んでいた。裏切る前と同じ、いや、それ以上にふりは続けられた。それは自身を高慢にさせ、罪の意識を薄められる行為になろうと彼女は微塵も思わなかっただろう。そうして、今になって気づいたのは自分のやるべきだった事。ルーク達だけではなく自分がきちんと言うべき言葉があったではないか。ちょっとした失態も良いところだ。どこまでも続く、私達の馬鹿馬鹿しくも必要な関係。とんだ腐れ縁にため息が出る。それでも、どこか心地よさを感じて居る自分もまた愚かであるのは間違いないと思えた。
「貴方がそう解釈するのは構いませんが……私達、私が裏切られた事実は決して消えない。
自分の犯した罪を受け止めなさい。無理などしなくても前には進めるんですから。」
と慰めるとは言い難い言葉を彼女に言い聞かせる。
一瞬、自分の冷酷さを呪おうと思ったが、どうであれ私は彼女を戒める者だ。そして同時に私を戒めているのだ。一寸足りとも甘えを含む訳にはいかなかった。屈んで彼女の顔を私の方へと向けさせる。涙はまだ止まってはいないようだ。アニスは拭う事もせずに呆然と立ち尽くしている。少しだけ自分の手で彼女の涙を拭う。
「それを背負うのが貴方のこれからの役目です。分かっていますね?」
「……はい。そうです、分かってます。
私が気に入らなくたって、嫌いだって良いから、大佐はずっと傍で私を叱っていてくれますよね?」
「お断りです。」
「……うっわわあ〜笑顔で酷いな、大佐ってば。私がこんなに頼んで……ふがっ」
「確証のないお願いは聞き入れられませんが、私には貴方がまだ必要です。
いや、必要となってしまったというべきでしょうか。」
二の次を告がせるまいと、言葉を並べ彼女の口を片手で塞ぐ。もうこれ以上は彼女を責める必要性もなかった。
「むご……どういうことですか、それ。」
私が手を下ろすとアニスは驚いた表情のまま、呆れた声で返した。必要なのは真実であるし、それ以上でもない。ただ利用価値はまだ彼女にある。
「そのまんまですよ、アニース。それともまだ長ったらしい説明が要りますか?」
「ぶー。わざわざご説明有難う御座いますぅ。」
「はは、良い子ですね。それでは、重苦しいお説教はお終いです。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
子供扱いされたのがよっぽど納得いかないのか不機嫌な顔のまま、アニスは返事をする。それを聞いて部屋へといこうとした。が、背中から声を掛けられる。
「大佐。」
「何ですか?」
「私には……大佐が居て良かった。嫌味なところは大嫌いですけど。少なくとも私きっと、これからは大丈夫だと思います。」
「それは良かった。私としてもそうしていただけると光栄ですね。」
「そういうところが嫌い!って言ってるんだけどなあ。それと、もう子供扱いしないで下さいよねっ!」
「どうでしょう。よーく考えておきますよ、アニス。」
「大佐がそう言う時って絶対考えるつもりなんてないでしょ、ほぼ。」
「おや、人聞きの悪い。」
意味の無いやりとりを終えた私達は、それぞれ方向へと廊下を歩いて自分の寝床に向かう。私は一人廊下を歩く間、私にとって意味が無いであろう事を考えた。例えば、私とあの子の関係だとか。
先ほどの様であれば、私達はきっとこのままで良いのだろう。お互いに利用されて利用する関係を保てれば。それ以上求めれば、最後には崩れ落ちるだけであろう事も。いかに自分が一番彼女の裏切りに傷ついていたかなんて、今となれば少しも問題ではない。私は大人で、彼女はまだ子供である。
「やれやれ、私もまだまだ子供という訳ですか。」
全く大人になれていないのは私の方かもしれない、と一人廊下でごちる。
夜の闇が体にしみた気がした。
ジェイド視点で。一度はやっておきたいザレッホ火山後ネタ。
きっとアニスと大佐ってお互いに相手を知ってるからこそ、
素直にごめんなさいと言えない関係なはずだ、と思い書きました。
どSな大佐を表現するのは足りない頭の私には難しかったです。
長々とした文を読んでいただき有難うございました。
(2006/2/1)
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