気持ち的には15菌程度。管理人が露骨な表現が苦手なので大したことはありませんが一応。
女体・キス表現が苦手な方はご注意下さい。
大丈夫という方はスクロールでこそりとどぞー。
不可侵領域の矛盾
必要としている何か。
必要でない何か。
その分別を曖昧にするものは何だったか。
「荒垣。」
背中越しでも判別出来る程身体に馴染んだ女の声が、俺を呼ぶ。
桐条はその日の影時間に丁度入る頃、俺の部屋へと訪れた。
まさに、俺が疲労困憊で横になって就寝しようとした直後に。
この女の事だ。
それ程までの用が無ければまさかここまで来たりはしない。
大した用事でないなら、今この部屋でなくとも良いはず。
けれど、俺の疲れきった体は起き上がる事もままならず、喋るのも面倒だった。
ましてやその名を呼ばれる資格も今は無いに等しい。
不必要な感情の破片が胸へと遠慮なく突き刺さっていく。
その原因である声の振動が俺の肩にぶつかって砕けて散れば、
仄かに熱を帯びた何かが肩に触れた。
「触んな。」
「思ったより温かいな。」
どうやらそれは桐条の手だったらしい。忠告は全く意味を成さなかった。
桐条は俺の空気にさらされた肩を撫でるの止めずに手を動かしている。
面倒になってそのまま放っておくが、正直居心地が悪い。
「アァ?当たり前だろうが……意味が分かんねぇ。」
「いつも低いものばかりと思っていた。」
あまりに筋が繋がらない会話に、その行為を制止する事も忘れ
いつもと様子が違う桐条に俺は言い返した。もちろん顔は向けないままだったが。
「はん。俺にだってきっちり人並ぐれぇの体温はある。」
「ふふ……どうだか。」
疲れきっている今はただその笑う息遣いさえも癇に触った。
妙に胸がざわつく。
「桐条。」
「何だ?」
「用が無いなら、さっさと戻って寝ろ。お前の気紛れに俺を使うんじゃねぇよ。」
そちらを向いていないのでその表情は垣間見えさえしないが、
安易に不愉快な感情が俺へと伝わってくる。
「お前の体調が気になってな。――すぐに戻るさ。」
何故幼馴染みであるアキでなく桐条なのか、と俺は理解に苦しんだ。
いくら昔の仲間とはいえ、この部屋まで訪れる理由が微塵も見当たらない。
俺の記憶しているところなら、大抵こういう時につつかってくるのはアキの方で。
桐条はそんなアキを諭していた方だ。
「で、どうなんだ?体調は。」
「別に……どうもしねぇ。」
「ん?悪くはないと取って良いのか、それは。」
いやに優しく子守唄でも歌いそうな声で桐条がまた俺の肩に手を置く。
その声で俺の中で何かが音を立て、崩れた。
それは俺の正しさか怒りが脆く崩れる音だったか。そんな事はどうでも良かった。
ただコイツだけは昔から訳が分かんねぇ
、と俺が再認識しただけだ。
「っ…!」
腕を伸ばし、その細い手首を片方掴むと少しばかり力任せに引っ張る。
糸も簡単に桐条の体は前にバランスを崩し、俺の胸元にまるまると収まった。
唐突な手首の痛みに動揺したのか、驚きを隠せない桐条の顔が見える。
「あ、荒垣…!何をするっ。」
「いい加減にしやがれ!桐条、テメェ何がしてぇんだ。」
「理由があるとしたら……お前は聞いてくれるのか?荒垣。」
俺がそう怒鳴ると、桐条は肩を一瞬だけ震わせ見上げてくる。
どちらにしろ疲れていようがいまいが、深刻な話ならば御免だと思った。
「ほざけ。今テメェの戯言に付き合ってられるか。疲れてんだ寝かせろ。」
「聞いてくれなくても、構わない。」
「……。」
「虚しい言い訳にしてくれた方が私もきっと楽だろうに違いないな。」
言い捨てる様にこぼす言葉と共に、桐条は額を胸元に押しつけてきた。
俺からは桐条の表情が見えなくなって、何か聞くのもためらわれる悲痛の声しか聞こえない。
「……私がこれまでしてきた行為は正しかったんだろうか。
例えば、私の戦う理由を知らない者からは疑われてしまったら?
真実を隠していた訳では無くとも、利用されたと感じていたら?
荒垣、一度は辞めたお前はどう思う?……私は間違っているのか?」
また顔を上げたかと思えば、塞き止めた水が溢れだすかの如く桐条が喋り立てた。
何に追い詰められていやがるんだか、想像もつかない目が俺の鼻先にある。
「お前が辞めた理由の一つもそうだろう。」
何だそりゃ。そんな訳あるか。
俺が辞めた理由をいつお前らに話してみせたんだ。冗談じゃねぇ。と俺は内心思った。
「うるせぇ。――わんわん喚くな。黙れ。」
「私達が、二年前どうにも出来なかったから…お前は!」
「っ…!それは違げぇって何度言やぁ分かるんだよ。」
「分かっているさ!私は……!」
「桐条。聞こえてるんなら、一回黙っとけ。」
「な……」
流れ出て止まらないそれを閉じ込めてやる為に、俺はその腕で桐条の頭をぎゅっと抱え込んだ。
それから一呼吸置いて、ゆっくりと頭を撫でてやると、さらさらとした紅い髪が指と指の間をすり抜けた。
「ん。」
「ったく、落ち着け。一気に質問するな。」
「……。」
「聞いてやるからよ。今度はゆっくり言いやがれ。」
「わ…わかった。…それはそうと…苦しいっ…!」
桐条は俺の胸元で身動ぐとそう呻いた。
ああ、随分押しつけてたからな。
「苦しいか?」
「苦しくない訳、ないだろう!荒垣、お前の力は強いんだ…っ!少しは手加減してくれ。」
「へっ。悪かったな。」
そう言われたので俺が腕を緩めると、我に返ったらしい桐条が息を深く吸い直し、喉の辺りを擦っている。
「けほっ……気持ちが乱れたままに言ってしまった、な。済まない、忘れてくれ。
」
「テメェは――」
「?」
「正しいと思ってやってきたんだろ?だったら、後悔なんかすんじゃねぇ。」
「……正しかったのかも自分自身疑っているのにか?」
適当に思われるかもしれないが、これが俺に言える精一杯の事に違いなかった。
「俺は、もう昔みてぇにどうこう言える立場じゃねぇんだ。好きにすりゃ良い。」
不服そうに俺が言ってやると、桐条は静かに笑みをたたえた。いつもの顔で。
「どこまでもお前は自由だな。私はそれが羨ましいよ。今も昔も……ずっとだ。」
「そう、でもねぇよ。」
俺はまた背を向けた。
そうは言うが、随分前から過去に囚われたまんま来た俺がここにいる。
深くなるばかりの傷跡と忘れたくとも忘れる訳にいかない残像、
天田のやつにガキらしくもない顔で言われた言葉。全部忘れちゃならねぇもんだ。
そんな物を抱えたやつのどこが自由なもんなのか。桐条に聞き返したいくらいだった。
「そんなお前だから必要だったかもしれないな。私は自由になれないから、こそ。」
「何を言いやがると思えば……不抜けた台詞かよ。テメェまでアキと同じ台詞を吐くんじゃねぇだろうな?」
「いいや、そんなつもりは無いさ。」
そう言って桐条は自ら俺の背中に身を寄せてきた。
体温の共有が可能なくらいに近い距離まで。
「おい……何をしやがる。」
「少しこのままで居させてくれないか。……それとも、この時間帯に私を出歩かせる気か?」
枕元の時計に目をやると、影時間に入ったので針は全く動いていない。
もう影時間に突入してから分程経ったところだろうか。
今日はタルタロスへの突入はしない事が決まっていたので、寮には他のヤツらも居る。
多分コイツみたいに影時間に何かしら眠れない奴もいるかもしれない。
それを含めて桐条は今出歩くのは危ないだろう?と言う訳だ。つくづくあざとい奴。
「影時間が明けるまで、だ。それ以上は有り得ねぇ。」
「私と居るのはまるで不愉快みたいに聞こえるが?」
「……そこまで言わなきゃなんねぇのか?」
「知ってるさ。お前が私を嫌うのも知ってる。」
「そんなんじゃねぇ。……ちげぇ、ちげぇよ。」
「なら、他になにが――」
俺は素早く振り向くとその体を押し倒した。あっさりと桐条を見下ろす体勢になる。
糧にもならない戯言ばかりを吐きやがって。
その口を軽く塞いでやってから離すと、桐条が息を吐き出す。
「はっ…あら、が――」
「うざってぇ。」
後に続く筈の言葉を言わせない様に今度は桐条の口を強く蓋でもする様に塞いだ。
そして、俺自身も何かに急かされ口内へと侵入を試みる。
「ふ……んんっ。」
しばらくその行為を繰り返すと、桐条は苦しそうに喘ぎながらも受け入れた。
舌を絡めると一層、激しい衝動に飲み込まれそうになる。
「桐条。悪りぃが……もう止めらんねぇぞ。」
最後の警告を告げたが、俺自身ここで止まれる保証も無かった。
いつもは歯止めが効きそうな事も影時間の所為か、確実に愚かしい狂気に蝕まれていく。
桐条のブラウスのリボンを解いてから、シャツのボタンをはずしていく作業にかかった。
「…や…止めてくれっ。私はそんなつもりで来たんじゃ……ない。」
「違げぇってか?今更……だいたいテメェが悪りぃんだ。無防備過ぎる、テメェが――自覚しろ。」
白い手でボタンをはずす俺の手をと掴もうとしていたが、
力がうまく入らないのか弱々しく添えられるだけだった。
羞恥心でいっぱいになったらしい桐条は顔を朱色に染め、目を潤ませ叫ぶ。
「ば、馬鹿っ!女として私を見るな。」
「テメェは女で俺は男だ。それ以外に何があるっていうんだよ。」
「私はそんな風に認められたかった訳じゃない。」
「ちいっ、テメェがそう思えなくても……俺はとっくの昔に認めちまってる。」
シャツのボタンをはずし終わったので、桐条の首筋にそっと湿った舌を這わせ始める。
すると途端に小さな肩がぴくりと揺れる。
「うあ…荒垣。駄目だ。私だってお前を…!」
その洩れる息を耳元で聞きながらも俺は首から鎖骨、更に胸元へと舌を運んで行った。
桐条はその感覚に耐え切れないのか、俺の肩に腕を伸ばすと後ろで交差させた。
益々、俺は止めるタイミングを失うばかりになる。
「…っはぁ…認めていたから…!出て行って欲しくは無かったんだ。……んぅ……。」
「それも今更だ。」
桐条の胸の下着を片手でずらすと、柔らかそうな乳房がこぼれた。
その二つの膨らみの内一つを手の平で揉みしだきながらも、
もう一つは水でも飲み干すように甘噛みしてやる。
その瞬間、甘い声が響く。
「あうんっ。」
空いたもう片方の手の指で桐条の太股をなぞっていく。
傷一つ無い艶やかな肌を。
スカートへの内部を目指し肌の上を下から滑る様に持っていく。
「違いない……な。あっ、もう……ふっ、これ以上は…!」
「……嫌か?」
ここまで来て抗えないコイツに尚、こう聞く俺も愚かしいに違いない。
「そうじゃ……ないっ。」
「なら、何だ?」
「お前に、触れられると私は……おかしくなりそうっ…で」
「はっ。」
笑わないとどこまでもこの自制が利かない衝動に支配されそうだった。
何を侵そうとしていた?俺は。
愚かしいのも大概にしてくれ。
数年経った今でも自分自身この持て余した感情に抗えないときた。
「何だ、そりゃ?……アキの奴以上にほんと訳わかんねぇよ、テメェ。」
「荒垣?」
「帰れ。」
起き上がって足だけをベッドの外へ投げ出し、座る。
ベッドの上にいる桐条は訳が解らないといった顔をしているんだろう。
「後悔したくなきゃ、帰れ。」
けど、その想像は間違いだった。
影時間独特の明るい夜の光で、桐条の顔が照らされる。
泣きそうでも怒ってもいない尖った目で俺を射抜いていた。
その目が映す何かを掴もうと、俺も目を逸らさないでおく。
しばらくの間、いつまでそうしていただろうか。
何も言わない時間だけが過ぎ去っていく。時間の感覚がおかしくなりそうな程静かに。
「そうか。」
桐条が静けさを打ち破る様に呟いた。
颯爽と立ち上がって服の乱れを整え、何も無かった様に扉の前へと向かっている。
俺も扉を開けてやろうと腰を上げた。
扉の真ん前まで来てから、何か言い忘れたのか桐条がもう一度こちらを振り返る。
「こんな時間まで済まなかった。……長居したな。」
「ああ。」
「本当はもっと――」
「これ以上、我が侭言うんじゃねぇ。テメェ、言ってる意味解ってんのか?」
と、間要れず俺は矢継ぎ早に言い放った。
桐条の言いかけた言葉の続きが解ったからこそ、言わせたくもなかった。
「……解っているさ。」
「じゃあ、早く帰って寝ちまえ。明日に響く。」
「そうだな。」
「おう。」
「ああ、……おやすみ。」
妙に間が悪いのも歯切れの無さも全部解っていたが、どうにもならなかった。
そんな醜態を晒したくもないのにな。
遠くなるアイツの背中を見送る気にもなれなくて、桐条が出て直ぐに俺はドアを閉じた。
閉める直前、ふと振り返り俺の姿を悲しそうに映す桐条の目が見えた。
けど、それは俺の目が映した幻だったかもしれない。そう思い込んでおいた。
感情の類に全部蓋をして、全ての関わりを断ち切れたらどんなに楽だろう。
「解っている……か。」
実際、解っちゃいねぇのは俺の方だろう。
とても考えの及ばないアイツの事。
頭を掻きつつ、のろのろとベッドへと戻る。
倒れこんでから横目で窓を見れば、影時間はまだ明けずに続いているのか外は明るい。
恨めしくも懐かしい光。
「ほんと、うざってぇ。」
アイツもアキもそして、俺自身も。何もかも。
欲しがる理由もない、必要でもない全て。
そう頭に思い描きながらも俺は瞬く間に眠りへと落ちていった。
今日も影時間の光が俺達を照らす闇夜へ、と。
翌朝。
「荒垣先輩!ちょっと良いですか?」
「あ?」
「ちょっとお聞きしたいんですけど……夜、何で2Fから美鶴先輩が戻ってきたか、知ってます?」
「……。」