★戻ってくる前の荒垣さんの日常を捏造。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かな明日を請う

 

 

 






ある夏の季節になった頃、日が落ち辺りが涼しく感じられる時間に荒垣はあるビルの一角にいた。
仕事を終え、その雇主と話す。こんなにも落ちぶれてしまった自分でも生きる為には金が必要だった。
一人前にこの体は腹も減れば眠りも必要とする。正直その当たり前であるすべてが何もかも煩しい気がしたが、
荒垣は働く事を選んだ。この雇主である中年男性は訳ありそうな自分を快く雇ってくれた。
荒垣もその誠意に答えられる様にとここで働いていた。

「今日も有難うな。正直手がなくってな助かったよ。お前さえ良かったら、ここで働くか?」
「いや、気ぃ遣わないで下さい。……これだけで十分もらってるんで。」

勤め先の主人にそう言われて荒垣は何と無く驚いた。というのも、日々生活していく為のバイトだったが、
暮らすのには困らない額をもらっていたのもあるし、何よりこの人には色々面倒を見てもらっていた。
仕事上がりに一緒に食事を食べに行くのが日常になり、度々世話になった。
その好意はとても荒垣にとっては有難かったが、今の彼は何も不自由はしていない。
何よりこんな自分の現状を思えば、どこかに所属してしまうのはどこか好ましくない。
継続した出来事をこなす時間も残されていない自分を思えば尚更で、荒垣はただ漠然と断るしかなかった。

「そっかあ、残念だな。お前ぐらいの歳なら学校があるもんな。そんな暇ないか。」
「すんません。……そういう事なんでお先に失礼します。」
「おう、気をつけて帰れよ。っと、今度またその内食べにでも行こうな。」
「はい。お疲れ様っした。」

自分が休学している事は一切洩らさずに荒垣は雇主である男性と別れた。
主人の好意をこれ以上無駄にしてしまう恐れがあり、どうも気が引けたのだ。



「さて……今日は飯でも買ってさっさと帰るか。」

出来たら、あの犬っころにも餌やんねぇとなと耽りながらも、
荒垣は普段は騒がしく今は静まり返った商店街を抜けていった。
幼い頃から歩いていた道なので迷い無く家路を目指し、途中コンビニがある道へと入っていく。
しばらくするとそのコンビニが見えてきたのか明るくなってきた。
すると、何やら誰かが入り口で右へ左へとうろうろしている。
女?こんな時間に物騒だな。と思いつつ、荒垣はコンビニへと近づいていった。
人影が確認出来る目の前まで到達すると、
何故かコンビニという場所が似合わない上品過ぎる少女がいた。
そこに居たのゆるいウェーブがかかった紅い髪の少女はまさしく荒垣の元仲間、桐条美鶴だった。

(桐条…か。)

知り合いとはいえ、何をコンビニの前で迷っているかは荒垣にはさっぱり理解できなかった。
しかし、自分もそこを通らなくては何も買えないので、仕方なく声を掛ける事にする。
本当は見つかってしまう前にそのまま家路を目指そうと軌道変更するつもりだった。

「おい、邪魔だぞ。そこ。」
「すいません。……って、お前!」

見開いた美鶴の目が暗がりの中でも荒垣の姿を捉える。

「荒垣じゃないか。」
「ちっ…テメェがこんなとこでうろついてるとはしくったな。」
「私がどこに居ようと不思議はないだろう。お前こそ、こんなとこで何を?」

荒垣に気づいた美鶴は荒垣と共に中に入ると同時に、話しかけた。
まさかここで荒垣に会えるとは思っていなかったのか、心底驚いた顔で美鶴は彼の顔を伺う。
自分がこういう場所に入るのが始めてで入り口で立ち止まっていた事も忘れて彼に付いて店内を歩く。

「何をって…見りゃあわかんだろ。ここで飯買って帰るんだよ。」

荒垣は弁当のコーナーの前で止まると、品定めをしつつ、説明するのも面倒そうに美鶴に言い放った。
見たことのない弁当の数々を美鶴はちらりと横目で見たが、
ふと必死になって彼を探しているある人の顔が頭に思い浮ぶ。

「まさかこんなところで出会えるとはな……明彦がよくお前を探しているぞ。」
「こっちとしちゃあ会えない方が数倍有難てぇよ。」
「そう言ってやるな。お前たちは幼い頃からの親友なんだろう?」
「そりゃ、腐れ縁の間違いだ。」

何でこんなところでコイツとこんな話をしきゃならないのか。荒垣は内心早く帰りたいとつくづく思った。
いつ美鶴があの幼馴染を呼ぶか内心冷や冷やもしていたが、幸い彼女は彼を呼ぶ素振りは全くなく、
会話も適当に切り上げて帰ろうと試みることにする。

「しかし、毎度コンビニ弁当か?栄養が偏るぞ。」

美鶴は荒垣の選ぶ目線を見つつ、心配の言葉を投げかけた。

「今日はたまたまだ。いつもは飯くらい自分で作って食べる。」
「そうか、料理が出来るんだったな。……そういえば、寮を出て行ってからはどこに住んでるんだ?」
「この近くだ。が、テメェにも言うつもりはねぇよ。」
「……余計な介入は要らない、か。」

相変わらず干渉を好まない荒垣に呆れつつも、美鶴はこれ以上は何も言わないべきかと悩んだ。
せっかく滅多に会えない人物を目の前にしていているのだ。明彦に有益になる話でも持ち帰らないと
勿体無い気がした。


「あの、な。荒垣。」
「あ?まだ何かあんのか?」

一方の荒垣はもう話すことはないと言わんばかりに、邪険な空気を醸し出している。

「今日はちょっと……夕飯が遅くなって、な。実は、今から食べるんだ。」
「……で?」

どこか歯切れの悪い美鶴の言い方に荒垣はその先にある本音を促した。

「お前もこれからみたいだし、……一緒に夕飯食べないか?」
「あー……なら、アキか他のやつとでも食べろよ。俺でなくても―」
「今日、明彦は部活の人と食事会らしい。後輩たちも今日は皆それぞれ用事があって……私一人なんだ。」

珍しい事もあるもんだと荒垣は思った。今はもう仲間でないに等しい自分を
美鶴が誘う状況はとても有り得ないからだった。
そもそもここであって食事しようという和やかな関係でもない。
美鶴も自分でとんでもないことを言ってしまった様な後悔に駆られた。

「……まぁ、構わねぇ、けどよ。だが、今更俺といてもする話なんかねぇだろ?」
「昔の仲間に随分な言い草だな。」
「当たり前の事を言ったまでだ。実際そうだろがよ。」

そういえばと美鶴は思い出した。よく放課後、三人で帰った時のことを。
三人で帰る間、荒垣は美鶴の事が苦手らしくあまり話しかけてはこなかった。
たとえ、話をしたとしても必要最低限のことしか彼は伝え様とせず、美鶴はその態度
がたまにもどかしくなり、「嫌いなら一緒に帰らなくて良い」と面と向かって言ってしまった事があった。
けれど、すぐに荒垣は「違げぇよ!誰が好き好んで嫌いな奴と帰るんだ」と言い返してきた。
「でも、お前に無理強いしているみたいで嫌だ。」正直と告げると、
彼は「俺にあんま気遣うなよ」と照れくさそうにしていたのだ。
そして、明彦が「照れてるんだ。」とフォローを入れるものだから、彼は益々不機嫌になった。
そう三人で仲良く帰った日の事をを美鶴は鮮明に覚えている。

「私としてはさっきので聞きたい事が出来た。」
「ち、勝手にしろ。」
「ふふ……じゃあ、どこに食べに行くとするか?」

美鶴は楽しそうに笑うと荒垣に問いかけた。

「これから行くのかよ。面倒くせぇからここでも良いか?」
「そうか?まあ、疲れているから私も嬉しいが。さて、何食べるかな。」

美鶴も弁当コーナーで品定めにと掛る。荒垣はそんな様子を見てふとある疑問で心配になった。
仮にも美鶴は特別課外活動部の部長だ。その部長がこんなところでしかも夜に油を売っていて良いものだろうか。
いや、断れない自分も悪いのかもしれない。

「おい……良いのか?」
「何が?」
「その、家に行かないと買ったものは食べらねぇだろ。寮戻んなくて平気か?」
「ああ、確かにまずいかもしれないな。でも、他の皆も今夜は遅いみたいだしな。」
「……俺の知ったこっちゃねぇか。」

どことなく納得いかない表情で荒垣は美鶴と共にコンビニを後にした。







「ここらへんに住んでたのか。以外と寮と近いんだな。」
「誰かに知られちまうのは避けたかったんだがな。良いから、早く上がれよ。夕飯にすんぞ。」
「ああ、邪魔する。」

部屋の中以外と整理整頓されており、小奇麗だった。靴も服も散乱してはいない。
むしろ、靴箱や箪笥へと収められている様だ。美鶴は男性の部屋といえばこう散らかった
図を想像していたので驚くしかなかった。

「そこらへん適当に座っとけ。飲み物は紅茶で良いか?」
「うん、それで頼む。」
「で、聞きたい事ってのは何だよ?」
「あ、それはだな。」
「幾月さんは元気してるか?」
「あ……ああ。いつも通り部員達相手につまらない冗談を言っている。」
「そうか。あの人も変わんねぇな。」
「そう、だな。」

再びの沈黙にもどかしくここに居てはいけない気分に美鶴はなった。
荒垣もどうにも続かない会話に苛立ちを覚えた。

「テメェも遅くなんねぇ内に帰った方が良いぞ。」
「あ。」

咄嗟に美鶴は何か言おうとして、荒垣の袖を掴んでしまった。荒垣が不審そうに見返る。

「何だよ。」
「もう少し話しないか?」
「テメェがしたくても、俺は話す事なんかねぇよ。」

それはただの言い訳に過ぎなかった。聞きたい事も話したい事もたくさんあるはずだった。
美鶴に伝え損ねた事だって延期のままになっていた。

「そんな事はないだろ。なら、お前と明彦の出会いでも聞かせて欲しいものだな。」
「テメェにとっちゃつまんねぇ話だぞ……?」

荒垣は馬鹿馬鹿しいと毒づきながらもぽつりと途切れる様に話し始めた。
自分たちの孤児院での生活。決して裕福ではなかったが、ほんの少しの希望があった事。
明彦と美紀という幼い頃から一緒だった友人の事。
覚えている全部を不器用でも伝わらなくてもそれでも美鶴に洗いざらい荒垣は話した。
その間、美鶴は一つも質問せず、荒垣の言葉を聴いていた。
ずっと埋まらなかった溝を埋まる様な気分がした。




「……って訳だ。もうあんま昔の話について聞くのはやめとけ。」

荒垣がため息をついて話が終わった合図をすると、美鶴もつられて一息した。
自分にしては話し過ぎてしまったと荒垣は後悔がつのった。
今になって過去を彼女に話して良かったのだろうか。
彼女からしてみればその知らない過去を知らずにいた事自体がもどかしかったみたいだが。

「こんな暗れぇ話、聞かなきゃ良かったと思ったろ?」

荒垣は確認の意味も込めて美鶴に聞いた。

「いいや、そんな事ないさ。明彦とお前が親友なのも頷ける話だ。」
「…まあな。」
「羨ましいとしか言い様が無いよ。」
「別に、今は一人じゃねぇだろ。」
「今はな。」

荒垣は少し寂しそうに笑う目を伏せた美鶴の顔を見逃さなかった。
何だってコイツは俺以上に本音を出しやがらねぇ。

「しまった。もう数分で影時間か。そろそろ帰らないとまずい。」

ふと美鶴が気づいて見た時には、時計の針は12時前目前まで到達しようとしていたところだった。

「シャドウか?」
「もちろん。」
「それはご苦労様なこった。」
「これが勤めだからな。荒垣、すまない。世話になった。私は帰るぞ。」
「おう――」
「?」
「くっ…」
「おい……どうした?しっかりしろ、荒垣!」

急に項垂れて座り込んだ荒垣に美鶴が駆け寄った。

「すまねぇ。ちょいと……そこの薬取ってくれ。」
「ん、これか?」
「ああ、水も頼んで良いか。」
「すぐ持ってくる!」
「くそっ。」

美鶴は急いでコップに水を注ぐと、荒垣に飲ませ様としてキッチンから戻ってきた。
荒垣は尚も肩で息をしてとても苦しそうだった。

「ほら、水だ。」

その手にコップを持たせようとしたが、コップは虚しくもごとんと擦り落ちて、中の水は畳へと広がっていった。

「っちく……しょ。」
「荒垣!」

様子を見ようと駆け寄れば、腕の中へと美鶴は閉じ込められた。それは力強くも弱弱しく。切ない衝動と共に。
寂しさに怯えた子供が縋る様に抱きしめられ、美鶴はなんにも言えなくなった。

「わりぃ。……今離すからよ。」

しかし、弱弱しい言葉とは裏腹に解く事出来ない強い力で美鶴の身体は引き寄せられていた。
離すどころか離す気配すらない。
美鶴はそんな彼の弱い背中を見たのはほとんど初めてだった。
ほとんどというのも、たった一度だけ荒垣が退部する原因となった夜に、
孤独に苛まされる背中を見てしまったからだ。
けれども、今度もまたその夜見てしまった背中がある。暗い夜に怯える子供みたいな彼の背中が。

「いつもこうなのか。……どこか身体でも悪いんじゃないか?」
「どうってことねぇ。少し眩暈がしただけだ。」

そういうものの荒垣の荒い息遣いの振動が身体を伝わって美鶴へと流れてくる。
冷たい様で仄かに温かい熱を伴って。
荒垣はこの慣れきった時間の中決して寂しい訳ではなかったが、美鶴を放せずにいた。
自分でも混乱してるのかもしれないとぼんやり考える。

「あまり酷い様なら医者に掛った方が良い。明彦も心配するだろう?」
「俺だけでどうにかなる。」

そう言ってから、美鶴を捕らえていた腕を荒垣はするりと降ろした。
名残惜しさと邪な考えは捨ててしまえと自分自身を叱り付けた。

「引き止めちまったな。」
「いや、構わないさ。」

美鶴も出来ればこのままでいたい気がしたが、きっと気の迷いだと思い込んだ。

「桐条。」
「ん?」
「アキにはここのこと言うなよ。アイツの事だ、ぜってぇ押しかけてきやがるからな。」
「まるで知らない方が身の為だみたいな言い方だな。心配ない。これ以上に干渉しないさ。」

荒垣が去ってしまってから暗黙の決まりが知らぬ間に出来てしまった。
二人の間に横たわる壁はいつからか取り払う事も出来ないくらいに高い。

「ふん、元よりテメェなら心配はねぇか。……さてとだ、帰り送ってやるよ。そこまで。」

影時間が明け、辺りは暗闇に飲み込まれた路地を美鶴と荒垣は二人並んで歩いた。
学校帰りによく通った道をするすると歩を進めて行く。

「懐かしいな。」

何となしに美鶴が過去を懐かしんで言った。

「……昔のことは無しだつっただろ。」
「でも、懐かしい。」
「テメェもアキと同じか。」
「悪かったな。」

不満そうな声をあげたものの美鶴はその整った口元で笑みを作る。

「別に悪いとは言ってねぇ。」

神妙な面持ちで荒垣は美鶴の綺麗な笑顔を見つめた。照れくさい様な気まずい様な気分に荒垣はなった。

「お前にとって過去は振り返らないものか……なあ、荒垣。」
「あん?」
「……何でも無い。」

今は問い掛けるべきではないと美鶴は言葉を止めた。

「訳がわかんねぇ奴だな、お前も。」
「うん。」

肯定でも否定でもない返事を美鶴はして、寮に着くまでの間二人は一言も交わさずに歩き続けた。
心なしか気遣いは要らないくらいに優しい時間が流れた。

「おら、着いたぞ。じゃあな。」
「ありがとう。……またな。」


『また』という言葉は今の彼にとっては意味が無いと知っていたが、敢えて美鶴は口にしてみた。
まるで何か叶わない願いを歌う様に決して振り返らないその背中に向けて。
荒垣もまた美鶴のその別れの言葉がこの場にそぐわない事が引っ掛かったが、
聞かないフリをして背を向けた。出来れば、もうその姿を見なくて済む様に声だけを焼き付けて。
また会えばきっと手放したくになくなるに違いない。それだけはどうしても避けなくてはいけなかった。


仮に、この先今日と同じ日は来ないだろうと知っていても。
友人の為にも、仲間と自分自身の為にも。




 



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お前が何か船に乗ってどこか行く。そんな夢を見た。
霧がかった朝でも紅く焼ける夕方でもない空間で去り行く背中を見つめていた。
両足は重りがついた様に一歩も動けない。
確かにその名前を呼んだのに私の喉は声を出すことすらなかった。


数年後、戦いを終えた私は墓の前にいた。
その石には『荒垣真次郎』の名前が刻まれている。
しゃがんで手を合わせた後、私はその石の前に立ち尽くした。こんな冷たい石の中にあの男はいるのだろうか。
ただ今亡き人の名前を頭の中で反芻する。そこにいた筈の男の名前を。

「これで良いものか。」

風がそよぐばかりで肝心な人からの返事はなかった。代わりに明るいトーンの声が私の意識を呼び戻す。

「あ!美鶴先輩。もう帰りますよ〜。」

ゆかりが皆と離れてしまった私を見つけ、息を弾ませて駆け寄ってくる。
こうして私を呼びに来る彼女の存在がとても有難いといつも思う。
今までもその明るさに何度救われているのか分からない。

「済まない……今行くところさ。」
「少し顔が赤いぞ?美鶴。」

ゆかりに続き歩いてきた明彦も近くへと寄ってきて、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
どうやら泣きそうな顔していたらしい。自分では平気な顔を装っていたはずなのに、
長年一緒にいる明彦には隠し通せなかった様だ。

「いや、大丈夫だ。行こうか。」
「ああ。これ以上、アイツらを待たせる訳にもいかんからな。」
「ですね。」

私はゆかりと明彦と一緒にその場を離れようと前に進んだが、ぽろりと出た無意識な想いに足を止めた。
本当は止まらないで戻るはずだった。けれど、それ強すぎる願いの前に抗えなかった。

「私はお前に会いたいよ……荒垣。」

願っても願っても叶わない夢。声が掠れるくらいに、必要だった。そんな存在だった。
だからこそ前に進まなくてはいけない。弱気な心に私は私自身で叱咤した。

「美鶴先輩、早く〜!おいていっちゃいますよ〜。」
「桐条せんぱーい、どうしたんスかー?もう腹減りましたよ〜。帰って何か美味しいモンでも食べたいッスー!」
「大して動いてないのに、もうお腹へっちゃったんですか?僕なんか少しもお腹減ってないのに。」
「どうやら順平さんは浪費スピードが普通より早い様であります。」
「あ、そうなんだ。面白いな、伊織の体って。」
「そこおおおっ、アイギスの言葉を真に受けないっ!だいたい、俺を何だと思ってるんだよ!」
「何かって、馬鹿…?」
「順平さんはそういうことでエネルギーばっか使うから、頭に行かないんじゃないですか。」
「うおーん、天田少年!酷いっ!!ゆかりっチもさり気に馬鹿て…!」
「ですが、皆さんの意見はどれも的を得ていると思われます。」
「アイギス……とどめになってる、それ。」
「皆、酷い仕打ち過ぎんぜ。俺っチ、もう立ち直れないーっ。」
「順平君っ!何ていうか……ほら、冗談だと思うよ。」
「ちっともそう思えマセンガ。――風花、よく見ろ!アイツラ、本気の目だぜ!」
「順平、うるさい!少しは黙っててよー!」

「美鶴、どうした?アイツらは限界みたいだし、もう帰るぞ。」
「ああ、今行く。」

もう私は寂しくないからとその墓の主に報告して背を向けた。向こうでは仲間達が呼んでいる。


今日も風は優しく通り抜けていく。
前を見て行こう。心配しなくても平気だ。今の私は一人ではないから。





「これで良い」と言われてから、その後割と美鶴は
荒垣の死に納得していたのでそこらへんを補完してみました。
実は思い当たる何かを知ってたから、暗黙の理解があったのかもしれないですね。
まあ結局妄想での補完しかできないんですが。



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