ストレガの生まれ変わり妄想


 

 

「んあ?まだ寝かしといてー。」
「何寝ぼけているのですか、ジン。起きて下さい。ここがどこだか分かって寝ているんですか?」
「あ〜、何ってわしらの家やろー?」
「……ちっとも分かってないみたい。」
「仕方ありません。ここは一つ荒技でいきましょうか。チドリは口をお願いします。」


「ぐっはあっ!な、なにしよる!苦しいやんか!」
「おやおや、やっと起きましたね。」
「いつまでも寝ぼけてないでよ。」
「せやったら、もっとマシな起こし方をしい!死ぬかと思うたわ。」

 

「ん……ここは?何か格好ちゃうけども、二人とも生きとったんか?!」
「そう、生きてるのよ……なんでかしら?」
「現実世界なのかすらも、検討が付きませんね。どう思いますか?」
「せやなぁ〜、天国ってちゅーにはうさん臭い場所と言いますか、えらい青一色の部屋やし…」
「どこかに閉じ込められて居ると言う訳でも、無いみたいですね。」

「……誰かいる。」
「ちいっ、さっきまでそんな気配を感じなかったで!何もんや!」

「ようこそ、ベルベットルームへ。」
「あ?」
「私はここの主のイゴールと申します。」
「そして、こちらは私の助手をエリザベス。以後お見知りおきを。この部屋にお客様が訪れるのは随分久しい事ですな。」
「べるべっとるーむぅ?どこなんや、一体?」
「まさか、ここは…」
「ふむ、説明がまだでしたな。ベルベットルーム…夢と現実、精神と物質の狭間にある場所、それこそここでございます。本来ならば、ここは契約を果たした方のみお招きする部屋。しかし、今回は貴方方は招かれたのです。これで十分お解りいただけましたかな?」
「ここに来られる日が来るとは…」
「……現実なんか?」
「私に聞かないでよ。」
「さて、早速貴方達三人宛に伝言を預かっておりますので、お渡ししたいと思います。エリザベス。」
「かしこまりました。……こちらがその伝言でございます。お受け取り下さい。」
「何て書いてあるん?」
「『罪を償え、生きろ』」
「ああ?何や。それ?」
「それから小さな文字で住所が書いてあります。鍵はポストにあるので、自由に使って欲しい。健闘を祈る……。」
「えらいけったいな文やな。」
「誰からなの?」
「差出人は……書いてありませんね」
「では、本題に移りましょう。今回、貴方方は以前とは別の存在として生をお受けになりました。”榊貴隆也”、”白戸陣”、”吉野千鳥”という個人の存在として。お分かりですかな?つまり、貴方方次第で、これから別の人生を歩む事が出来る事を意味しています。」
「生まれ変わり……とはちいとちゃうんか?」
「そうですね、本来の姿に戻ったと言えましょうか。全てが。私ども常連のお客様は、貴方方三人の幸せを願っておられます。くれぐれもそれをお忘れなくお過ごし下さい。
……それでは、もうお会いすることはなかろうと思いますが、ごきげんよう。」
「上に参ります。」
「え、唐突やな!なあ、お宅らは誰から頼まれたんやっ!」
「……動くんだ、ここ。」
「これから、現実世界に戻れるという事なのでしょうか?」
「そんな悠長な事言っとる場合か、千鳥!隆也!」

「ちっ……なんじゃい、あいつ等は。」
「着いたみたいね。」
「ここはポロニアンモールの……裏路地みたいですね。」
「ふぅ……全く訳が分からへん。わしらですらほんまの名前すら覚えていないっちゅうのに。」
「そうですね。私達の名前、例えば”タカヤ”は研究の際の分別、コードネームみたいなものかと思っていました。まぁ、折角ですから、この書いてあるところへ行ってみましょうか?」
「ああ、わしは別に構わへんが。」
「どんなとこかしら?」
「さあ、判りません。行って見ない事には。」

「見事なところですね。」
「ほんまにここなんか?」
「ええ、間違いなくここの住所です。」
「鍵もポストにあったわ。」
「わしらが生きるのに整ってるのはええけど、一体どこのどいつが……」
「まあ良いじゃないですか、陣。中を拝見するだけでも罰は当たらないでしょう?」
「まあな……今のわしらには住むところがないのも事実やしな。」

「広い。」
「キッチンから部屋まで、全部揃っとるな。」
「おや……お金まで。『必要なものを買う時に……後は自分達で稼ぎなさい』とのメモまで付けてあります。」
「至れり尽くせりやけど、やけに恩着せがましいというか、裏が感じられへんか?」
「となると、誰なんでしょう?孤児だった私たちにここまでする方がいるとは思えません。」
「確かに。わしらに罪を償って、生きろって書いておうたけど、えらいおかしいとは言えるな。」
「桐条グループ……?」
「そうならば、これは私たちに対する償いの為でしょうか?」
「せやったら、施し受ける筋合いはあらへんな。……早いとこ、調べてみるか。」
「その価値は十分にありそうですね。それまではここをアジトとしましょう。千鳥もそれで宜しいですか?」
「異論はないわ。ここなら快適そうだし。」
「決まりです。さて……そうなると。」
「そうと決まれば、腹ごしらえしとくに限るな。いよしっ、わしが買い出ししてくるわ。」
「私は部屋を整えておきましょう。隠しカメラがある可能性もありますしね。
万が一に備えるに越した事はないですから。」
「何かあったら連絡しよって下さい。ほな、行って来ますわ。」
「頼みましたよ、陣。」
「私も行く。」
「珍しいな、千鳥。お前さんが着いて来るなんて…」
「行くんでしょう?さっさとして。」
「っ、言われなくとも、分かっとる!」

「しっかし、とんとん拍子で住まいまで手に入れてしもうたなぁ。えらいご時世になったもんや。」
「そう?……私はあの家なら別に構わない。」
「相変わらず淡泊な奴やな…お前さんも。」
「何か不満でもあるの?」
「まさかそんな事言うてへんやんか。こうして生きとる方が不思議ちゅうだけで――」

「何やねん、睨むな。」
「……泣いたんだ、私の為に。執着しちゃいけないってタカヤも言ってたのに。」
「あぁ?何の話や?全く思い当たる節があらへん。」
「泣いてたでしょ、あの時。」
「お前――何で知っとる?」
「そういう気がしただけ。見た訳じゃない。」
「なら、忘れとき。」
「泣き虫。」
「何か言うたか、千鳥。」
「……何も。」
「ま、ええ。さて、何買こうていくか。」

「陣。」
「何や?」
「手出して。」
「手ぇ?……手がどないしたんや?――うおっ。」
「……行かないの?」
「な、な、何やねん、お前、急に……!」
「買い物するんでしょ。」
「ほんま前と同じで素直じゃあらへん。」
「陣も、でしょ。」
「はーん……珍しく照れとるんか?」
「今日は気分が良いだけ。調子に乗らないで。」
「急にそないな事して、どないするんや?」
「こうする。」

「……。」

「……こんなの聞いてへん。不意打ちや。」
「いい加減自覚して。」
「やかましいわ、クソっ…!面子、丸潰れやないか。」
「陣、うるさい。」

 

「おや?顔が赤いですよ、陣。走って買い物してきてくれたんですか?」
「ちゃうわっ!これは、断じてちゃう!わしは別にそないな事で、こうなった訳やないっ。」
「はぁ……言っている事が全く分かりませんが。何かあったのですか、千鳥。」
「知らない。」
「そうですか。ともかく落ち着いて下さい。」
「あ……すんません。急に取り乱してしもうて。」
「構いませんよ。それで何があったのですか?」
「それ以上は聞かんといて下さい。」
「馬鹿じゃない。」
「ああ?誰のせいや、コラ。」
「なるほど。喧嘩でもしたんですか?」
「どないしたら、そないな風に見えるちゅうんですか!?」



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