何もかも夢幻なら


 

何もかも夢幻ならいい。

 

わたしは泣いた。無邪気な子供の様に泣いた。それは暑い夏の日のこと。

 

貴方は知っていた私の悲しみを。

貴方は見て居た私の醜さを。

貴方は置き去りにした私の心を。

 

 

 

 

「辺鄙なとこで会うたな。」
「……生きてたんだ。」
「お陰様でな。」

「なんかやつれた。」
「変わらず体はそのまんまやから、しんどいのはかわらへん。」
「前に言った言葉、やっと分かったかしら?」
「まあな……ほんま、ただの冗談かと思うてた。」
「あの時のジン、まるで信じて無かったもの。」
「当たり前やろ。現実味なさ過ぎて感謝していいかもわからん。」
「だから生きてるじゃない。」
「一応感謝はしとく……恩に着るわ」


「……変。」
「何がやねん。」
「ジンに感謝されるなんて……雨が降りそう。」
「ほっとけ。そや、そっちは随分と馴染んでるみたいやなあ。」
「気になる?」
「……まあ、ぼちぼちな。」

「これからどうするの?」
「もうペルソナはないし、残りの時間を気ままに使うのもまた一興かもしれへんな。」
「何も考えてなかったって事ね。」
「うっさいわ。そういうお前こそどうすんねん。」
「……まだ分からない。」
「そっちこそ決めとらんやないか。」
「これから決める事だから……ジン達もこっち来る?」
「はん。阿呆な事抜かすんやない。それだけは出来けへん相談や。」
「なぜ?影時間はもうないのに。」
「今のお前さんはもうストレガやない。……ただの千鳥や。」
「屁理屈ばっかり。」
「ちっとも関係あらへん他人に気遣う暇があるなら、自由に生とってればえぇ。」
「……分かってる。」
「ワシらはもうお前には手をだす理由もないしな。」
「……。」

「ほな、達者に暮らしや。」
「待って。」
「なんや、まだ――」
「死んだら駄目よ、ジン。」
「っ………無理や。お前みたいに都合良く命を繋げる力、ワシにはないんやで。」
「絶対じゃないけど、やってみないと分からないわ。」
「冗談よし。第一アテも無いのにどうすんねん?」
「あるわ。一つだけ。」

「桐条か…!あそこはもう直接関わってる奴は全員おっち死によったやないか……て、まさか……!?」
「そう、元研究員が居るの。たった一人。」
「そないな話、初耳やな。」
「じゅんぺー達から聞いた話よ。」
「はーん、つくづく仲良うこって。」
「羨ましいの?」
「そんなもんちゃう。むしろうざったいわ、そないな関係」
「……可愛くない」
「可愛く無くて結構や」

「もうえぇよ、チドリ。またこの体いじくられるのは勘弁やわ。」
「まだ話は終わってない。」
「これでええやないか、もう。あの人もきっとな同じこというわ。」
「……生きてて、ジン。」

「くくっ……お前さんにそう言われたんは二度目やな」
「馬鹿。到底救えないわ」
「そうやな。」

「な、もう帰りや。……待ってんのやろ?」
「……。」
「これでさいならや」
「……うん。」

私は冷たい夢を見た。景色をぼやかすしかなかった。
かつては望んだ未来が、微かな希望が生まれた過去が全部、町に飲み込まれ溶け落ちてゆく。

どこからか流れる涙が頬を伝う。温く温かい悲しみはきっとあの子のものに違いない

 

誰か

誰か

あの子を助けてはくれないかしら。もう私では触れることも叶わないから。

 

私の幼い願い事はさらさら流れてゆくだけで。去り行く背中が映る瞳を開いたまま、立ち尽くすしかできなかった。



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