幼さが背負うもの



未成長の背中は彼がまだ子供であるしるし。別に一緒にいるのが日常ではない。たまたま同じ部屋に居たと言う方が正しい。静まり返る部屋では風だけが揺れ動いていた。

 

「ジン」
「ワシが真っ先に死ぬやと?嘘も大概にせぇよ」

 

声はまったく届いていない。独り言に等しい呟き。

「だいたい確信もあらへんのに誰がすぐ死ぬて?ワシはまだくたばる訳にはいかんのや。」

そう口早に言うものの、確実に追い詰められている。それだけはチドリもわかった。そして、慰めることは彼にとっては何よりも屈辱だから、笑う様に強固な心を確かめる他はない事もわかっていた。

「ジン、意地が悪いもの。」
「はっ、ちいとも褒めらとらんやないか。」

歯を食いしばっているのか背中から発された声は幾分か低い。

「あんな、チドリ」
「……。」
「ワシが先に死んだら、タカヤを頼むわ」
「嫌。」
「だろな、解っとる」
「分かってるなら……言わなきゃいいのに」

背中がますます小さくみえる。彼は確かにチドリより一つ幼い。両手でその背中にしがみつく。静かに呼吸をしている揺れがつたわって、心地よく震える。しかし擦り寄ってみても、ジンは別段驚くわけでもなく振り返りもしなかった。チドリとは反対の向こうを見ている今、たしかめられ無いが。きっと複雑に交差している感情の狭間に彼はいる。その想いごと包んで、抱く力を強める。

「大丈夫。ジンは死なないから。……多分」
「……多分て何や、多分て」
「覚えて無いの、あの時の事。」
「あのとき?いつの話して――」
「やっぱり覚えてない。」
「うっさい。はっきし言えばえぇやんか。何も思い当たらへん。」
「覚えてないなら良いわ。もう寝るから。」
「あ、コラ!そのまま寝たらあかん…ちょい待てーー」
「おやすみ」
「結局黙んまりかい。……良い気なもんや。」

 

死なないでと言える程、私たち諦めが悪ければ、良かったのに。

そう願うのにはもう時間が経ち過ぎてしまった。だからこそ、ありふれた未来は要らないの。

本当に欲しいモノはそこには無いのだから。


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