痛みしらず


「…っ!」
「ん、どないした?」

「なんか……ここら辺が痛い。」
「ここ言われてもなァ……見たところ怪我しとる訳でもないし。」
「何でも良いから、早くどうにかして。」
「どこかで診てもらうて来るか?」
「……病院は嫌。」
「我が儘言える立場か。……ほな、どうなったところで医者に掛かる金は元よりあらへんし、戸籍なしのワシらは保険も利かん。ほんま面倒や。で、他に痛とうなったとこは?」
「ない。ここだけみたい。」
「せやかて、そないなとこが痛くなる原因なんか思いつかへんわ。何の症状か分かるだけでも随分ちゃうんやけど。」
「……分からないものは分からない。だからジンが診て。」
「アホ。仮にもチドリ―お前さんはオンナや。ちっとは恥じらいちゅうもんを持て。」
「一応女として見てたんだ。……意外ね。」
「自覚がちぃと足りないんのも問題やな……て、言っとる側から。コラ、チドリ。聞いとるんか?」

「……どう?」
「は。」
「どうって聞いてるんだけど。」
「ど、どうて……どうもせぇへん。」
「でも、ジンの顔。真っ赤。」
「当たり前や……普通男なら誰でもそうなるわ。」
「何で?」
「っ聞くな!いい加減離さんかい!」
「まだ駄目。診てくれるんでしょ?」
「わ、ワシにどないしろちゅうねん。」
「こうしてて。」
「……!」
「ん、そう。」
「……。」
「っ……痛い。」
「んあ、ここか?」
「うん……そこらへん。あ。」
「駄目やワシっ。ここは一つこらえとけ。」
「何、独り言言ってるの?もう、痛くないから離して。」
「……お前なァ。」


「で、どこか変だった?」
「どこも何ともあるか!えぇから、はよしまえ!」
「うろたえるほどのことじゃないと思うけど。」
「やかましいわ。こう見えてもワシは純粋なんや純粋!」
「変なの、きもちいいのに。」
「何やて……まさか、ハナからワシにこうさせるつもりで……!」
「――だったらどうするの?」
「えらい遠回しな事せぇへんでも、甘えたいなら甘えたい言えばえぇんやんか。ワシかて優しくしてやるで。」
「うるさい。」
「ほ〜、そかそか。ちっとは女らしいとこもあったんやな。」


「……!」
「ぐはっ!……な、何しよる!」
「変なこと口走るからよ。自業自得。」
「いきなりミゾオチ食らわすのは止さんかいっ!」
「寝言は寝てから言って。」
「っ……ほんま可愛ない女。」
「ずっと前から知ってるわ、そんなこと。ジンに言われなくても……知ってる。」
「……すまん。言い過ぎた。」
「なに、急に。」
「心底不本意やけどな、ワシにはチドリが必要なんや。」
「それこそ寝言じゃない。」

ジンの眼を良くみようとしたら、すぐに後ろへと顔を反らされてしまった。

「勝手に言っとれ。」
「顔見せて」
「断る。」



今回だけは耳朶まで赤く染まるほど、照れ隠しが下手な貴方に命じて許してあげる。

 

 

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