君がいる未来。


パラレル。学生陣+千鳥+伊織視点。

 

 

 



世の中どんなに願ってもさ、叶わない事の一つや二つくらいよくあるよな。例に洩れず俺も、もう絶対会えるはずがないって思ってた。だって、この目で彼女が静かに息を引き取るのを見たんだ。

「っちきしょ……何でだよ」

なのに何で。今、俺はこんな光景に遭遇しているんだ?

目線の先には長い赤髪を揺らして、ゆっくりと下校する子がいる。そう――死んでしまったはずの彼女だ。目を疑った。間違えるはずもない無表情な顔立ちを見た瞬間、近くにいたゆか
りっチや風花、皆の声は頭からはシャットアウトされた。気付けば俺は走って追いかけていた。彼女をめがけ全力疾走で。けど、実際追いついたらどうするとか全然考えちゃいなかった。これがもし他人の空似だったら。とか考え出したら、急に足が竦んでしまっていた。

 

マジやべーよ。ホントに勘違いだったらどうするつもりだったんだよ、俺!
そうだとしたら、神様とやらは随分残酷過ぎやしねぇか?ある意味、この俺様を試しているのか。



「チド――」

「何やお前さんも帰るとこか?千鳥。」

間違ってたら謝れば何とかなるだろ。と思い、声を掛けようとした。が、俺より先に妙な訛りの男が彼女に声を掛けた。

「陣。」

彼女が驚くでもなく男の方を振り返った。
容姿は少し違うが、その青髪の男はどこかで見たことがある。そうだ、彼女の仲間の一人であった男―ジン。アイツだった。何でアイツまで…目の錯覚とも思えない程に二人はそこにいる。もしかしてタカヤとか言う奴も生き返っちゃったのか?咄嗟に俺は身を隠した。二人は俺に気付く気配もなく歩みを進めている。このまま帰るべきか二人を追いかけるべきか。


「先帰っておってもえぇって言とったのに。」
「私も部活だったの。」
「いつの間に……どこに入ったんや?」
「美術部。」
「ああ、絵描くの好きやもんなぁ。ただわしにはお前の絵はちいとも理解出来んが。」

結局おれは二人が向かう方向へ付いて来てしまった。あの彼女に良く似た子が好
きだった絵を描いていると聞いて、余計に確かめなくてはいけない衝動に駆られたのだ。

「別に分からなくて良いのに。誰にも邪魔されないで絵が書きたかったけど、入っておいた方が担任には何も言われないもの。」
「せやな、帰宅部しとっても何もする事があらへん。で、自分、今日の夕飯は何がえぇ?」
「オムライス。」
「えらい子供なリクエストやな。」
「うるさい。」
「まだ家に卵あったか?…ま、採用したる。」
「今日は失敗しないでよね。」
「やかまし。いっつもわしにメシ作れ言うとるのは誰や。」

何だか親しげに話す二人を見ていると少し胸が痛んだ。彼女は居なくなったはずなのに、この痛みは何で沸き上がるんだろうか。

「――チドリ!!」

俺は後先考えず彼女の名前を呼んだ。この機会を逃したらもう俺はきっと後悔すんだろなと思ったら、呼ばずにはいられなかった。

「……何?」

名前を呼ばれて彼女の目は俺を見た。正面からどうやら他人の空似ではなかった。

「君、チドリだよな?」
「何や?千鳥の知り合いか。」
「ううん、全然知らない人。」
「うえっ…二人とも覚えてねぇ―の?俺、伊織順平つーんだけどさ。」
「覚えてるも何も、私は君の事知らない。」
「同じく、わしも兄ちゃんとは初めて会うたわ。一つだけ分かるんは同じガッコと通っとることぐらいで…ワシらに用か?」
「いや、その、知り合いに似てたもんで、つい。」


「あのさ、もう一回聞くけど、チドリとジン……だよな?」
「確かに私は千鳥だけど……?」
「何でワシらの名前知っとる。」
「だから知り合いにそっくりなんだよ、あんたらが!また会えたと思えば知らないって……はあ、無駄足かよ。」
「同姓同名の他人とちゃうか?ともかく悪いが、ワシらは兄ちゃんをこれぽっちも知らん。」
「マジで?」
「うん。」
「そういう事や――帰るで、千鳥。」
「……早く帰った方が良いよ――この辺、暗くなると物騒だから。」
「チドリ。いや……別人だもんな。急に引き止めっちまったみたいで、ごめん。」
「……別に大丈夫。謝る必要なんてない。」
「そうゆう事や、兄ちゃん。ま、これで知り合いくらいにはなるかもしれんけどな。」
「くそっ。結局は俺の勘違いって訳か……あんたらには悪い事しちゃったな。」
「もう良い。なんなら、今から君の友達になっても良いけど。」
「はい?」



「千鳥!ええんか?そないな事言って。」
「入学したばかりで私達には知り合いがいないから丁度良いでしょ。それにこの人、面白そう。」
「面白そうて……はあ。わしはどないな事になっても知らんぞ。」
「じゅんぺい。」
「へ?」
「名前、伊織順平でしょ?私は吉野千鳥。こっちは――
「白戸陣や。ちいと納得いかんけど……宜しく頼むわ。」
「宜しく、順平。」
「お、おうっ!勿論だぜ!チドリにジン、俺っちと知り合いになったからには存分に学園生活をエンジョイさせてやる!明日楽しみにしてろよ。」
「うん、分かった。……じゃまた明日ね。」
「ああ!また明日な、チドリ!」
「あんたもな。」
「お、ジンも帰りは一緒か?そっかそっか。……頼んだぜ!俺の代わりにチドリを途中までちゃんと送り届けてくれよ。」
「あ〜……分かっとるから、あんたもはよ帰れ。」
「おっと、じゃあなっ!」

また前の彼女とは違うかもしんないけど、友達になれた。俺はそれで十分だった。彼女と話が出来る、笑いあったり出来るただそれが出来るかもしれない未来を想像するだけで満たされて行く。帰ったら皆に伝えてやりたいくらいに。

「……何ややかましい兄ちゃんやなあ。えらいのに捕まったんとちゃうかこれ。異様に千鳥を気に入ってたみたいやし。」
「明日から楽しくなりそうね。」
「そうか?わしは確実にややこしい事が来そうな気がしてきたわ。」



けど、思ったより前途多難な未来が待っているなんてこの時の俺は知る訳もなかった。

 

 

 

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