歪んだ希望。


「お早いお迎えやな。」
「……別に待ってもいなかったでしょ。」
「そやなぁ、正直会えるとは思わんかった。」
「私もあんたがこっちに来るとは思ってなかった。誰よりも怖がってたから。」
「やかまし。タカヤとお前さんみたいにわしは潔く出来とらん。どっちかと言われたら意地が悪い。」
「それなのに滅びを願ったのは、何故?」
「わしがあの人が狂喜に蝕まれていくのをただ見とるしか出来んかったから。……あんな思いするんはもう嫌になった。その内、なんもかんも無くなったらえぇんや。て思うようになりよってな。」
「だから、生きることを捨てたの?」
「誰の所為やねん。あの人とお前はいつだってわしを置いてきよる。遠い手の届かんとこまでな。行くな、言うてもどうせ聞かん。」
「まるで……子供みたいな理屈ね、おかしいわ。」
「何とでも言え。言いたいこと言い終わったんやったら、はよ、消えろ。」

「ジン、ほんとは寂しかった?」
「ちゃう……わしはお前さんが死によった時から、あの人を失うのが余計怖くなった。」
「あんた達が、私を死なせたも同然の癖に。」
「別にあないな事する気はなかったんやで?せやけど、何を思うたかあの人は、お前さんを変えたあの兄ちゃんがえらい気に入らんかったみたいでな。
ただ、お前が離れていくちゅうのが悔しかっただけかもしれん。」
「タカヤが?」
「そや、三人ずっと一緒やったんや。そのくらい思うててもおかしゅうはないやろ。」
「ホント揃ってダメね、あんた達って。」
「ダメで悪うかったな。」
「なら、もう一度生きてたい?」


「あ?何や、て?チドリ。……何て言うた、今。」
「生きてたい?また私達三人で。」
「は……そないなこと出来るか。だいたい神サマに許し請うにはわしらは殺しすぎた。大勢の人間さまを、な。この身体に背負うた罪は手に余る。――所詮、一生地獄がお似合いや。」
「だったら尚更ね。生きて償いをしなきゃならない、私達は。」
「えらい説教じみとるな、死んだ反動か?」
「そうかも。死ぬのを一番怖がってたのはジンだったけど。」
「昔の話をほじくり返すな。」
「這いつくばっても生きることができる?」
「今度は遠まわしに脅しか……まあ、そないなことはどうでもえぇ。丁度退屈してたとこや。」
「……決まりね。」
「お前さんらと生きらるんやったら、どこでも付きおうたる。地獄でも天国でもな。」


「今日は随分と素直じゃない。――どうかしたの?」
「理由はあらん。はよ、気が変わらん内に連れてけ。今やったら、わしとお前さんの約束守らしたるわ。」
「覚えてたんだ。そんな昔のこと。」
「向こう行ったらナンボでも叶えたる、そらでっかい約束をなぁ。」
「……うん、楽しみにしてる。」
「ああ、タカヤも迎えに行ってやらな。」

 

 

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