お気に入り。


「あ」

「何しとる。」
「カップ……割れちゃった。」
「見れば分かるわ。なぁーにボケっとしとったんや?」
「ボケっとしてない。いくらメーディアでも元の形には……戻らないか。」
「そうまでして直せるもんか?ええから、わしが片付けとく。お前は触るな。」
「気に入ってたのに。」
「わしがまた似た様な感じの買こうてきてやるから、それは捨てとき。」
「ううん……別に似たのは要らない。」
「まるっきり同じヤツが良いんか?ふーん、珍しい事もあるんやなァ。そこまで執着しとったとは。」
「違うわ。同じのでも要らない。買っても、さっきのと同じじゃないから。」
「訳が分からん。同じやつは同じやろ?」
「だって、これはジンと選んで買ったやつだから。」
「なぁーるほど。全額、わしが負担したやつやけども、な。」
「どっちにしてもこれと同じのはもうないでしょ、多分。」
「そういう執着はあかん、とか言うてなかったか?」
「……。」
「しゃあない。また明日、わしがついてったるから。そしたら、好きなのでも何でも選べばえぇやん。」
「うん。」

 

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