幼馴染

 

 

 

長い任期の遠征を終え、封印騎士団の自室にてヤハとその友人ユーリックはくつろいでいた。季節は秋で、随分と中庭に植えてある木々は色付き始めていた。赤や黄色に染まった葉はちらほらと風が来る度に散っている。久々の暇を持て余したのかユーリックは窓辺で外の風景を眺め、ヤハはその後ろで二人分の紅茶を用意していた。

「お、ノウェとエリスの二人じゃないか?あのちみっこいのは。」


外で走り回る小さな二つの人影を見て、穏やかな声でユーリックが言う。一人は相手の手を引っ張り元気に走り回っているエリスという少女で、もう一人はその少女に手を引っ張られ渋々と走っているノウェだ。ヤハは紅茶をティーカップに丁寧に注ぎ終わってから、ちらりと横目でその光景を見る。


「ですね。なんともあの二人は仲が宜しい事で微笑ましい限りです。」
「ははっ…あれは半分エリスが気乗りしないノウェを引きづり回している様なもんだけどな。」
「ですが、あの気の強いエリスをノウェが振り回す事も少々ある様ですよ。」


ヤハが付け加える。

「ふーむ、そりゃノウェはあのドラゴンに育てられた根っからの野生児だからだろ。その所為で好奇心が旺盛過ぎて、目を離した隙にここの建物の片っ端から探検しまくってるみたいだと、オロー団長が仰ってたがな。」
「ふふ…まるでそなたが幼い時と一緒ですね。」

ノウェとユーリックの面影が重なったのか、ユーリックに聞こえない程度の声でヤハが言う。

「ん?何か言ったかヤハ。」
「いえ、何も。さて、そなたも飲むのでしょう?淹れたての紅茶。」
「おう、悪いねえ」


ヤハは湯気がのぼるティーカップをそつなく持ち上げ、ユーリックの手元に渡す。ティーカップを受け取るとユーリックは、そんな上品な友人の振る舞いを見ていていつも思う。本当は友人は貴族の出身ではないのか。しかし、自分はこの幼馴染である友人の境遇を誰よりも共にしてきた。苦しかったときも悲しいときも、この封印騎士団に入ったときも一緒だった。もちろんこれは自分の思い込みに過ぎない事だとも、ユーリックは知っているのでなかった事にする。こんな静かで穏やかな時間にそれを考えるのは邪魔なものでしかないからだ。

紅茶をすすりながら立ち込める湯気を眺め、色々思い出したのか二人とも感慨にふけっている。

「あの二人を見ていると…私達の子供の頃を思い出しませんか、ユーリック。」

窓の外の仲睦まじく遊んでいるエリスとノウェを見ていたヤハが言う。

「…そうだ、な。孤児院はまあ…色々とあったが楽しかったしな。」


目を細め、同じく昔を懐かしんでいたユーリックは笑いながら答える。


「そなたは良くいたずらばかりしては、その度に院長先生に怒られていましたね。」
「…そっ、それはだなあ、ヤハ。あのばあさんが口うるさいから俺も腹が立って…つい。というかあまり思い出したくない事の一つだぞ、それはっ。」

過去の事実をヤハに言われ、ユーリックはあわてふためき言い返す。

 


「そうでしたか?少年時代の良き思い出の一つだとは私は思いますが。」
「もし本当にそうであれば、今更何にも恥ずかしい事はないぜ。」

ユーリックがそう言うと、二人はどちらからともなく笑った。

 

 

 




ユリエリから脱線してますね。そうしてついに若ユーリックとヤハ様の捏造話書いてしまったー。
この二人もいつの間にか友情が壊されたあたり切ないです。


 
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