空白を埋めるのは

 

 

 

現世に居てはならざるものとなってからの三年間は、決して俺自身に安らぎをもたらしてはくれなかった。師を放り出してまで助かった自分への呵責。俺達を死へと導いたあの男への恐怖。痛みは感じても死ねない体。それらが入り交じった感情が何処までも苛ませ続けた。むしろ死んじまった方が楽だろうという程で。ましてや俺が何よりも渇望していた生とは違う、生き地獄を彷徨う羽目になっちまった。


俺は死ぬ術を求めて、行く当ても無く旅を続けた。自分がこの世に居るのか解らないままどこまでも。けれども、過去の記憶は鮮明に残っていた。それだけが空っぽな俺の支えだった。

 

いつからか時間を共有していた友人。

最後まで命を賭して守ってくれた師。

家族の様に慕ってくれたあいつら。

 

その人達と過ごした美しく楽しい日々ばかりが甦ってくる。不思議とあの頃が遠い昔に思えた。死ぬのが人一倍嫌なのに、そのくせ不死を望んではいない。矛盾さが体を支配するばかりで、どんどん虚しさを広げる自分。


今、こんなにも不様な俺をみたら、あの人達には何と言われちまうのか。特に、俺はあのお嬢ちゃんに会おうものなら、発する言葉とて思い浮かぶ自信もない訳で。とてもじゃないが言い訳なんぞできそうもない。

例え、したところで彼女に軽蔑されるのが目に見える。それだけは嫌だった。お嬢ちゃんにだけはどうしても軽蔑されたくなかった。どんなに会いたいと想っても、そうしていつも思い留まった。本当は封印騎士団に戻れば、いつであろうと会えた。騎士団に居たあの自分が感じたままの気持ちを伝える事も。抱きしめてずっと傍にいてやる事もできた。それが叶うのなら、あの嬢ちゃんに疎まれていようと忘れられていたとしていてもどっちでも良かった。


其れほどまでにあの年の離れた彼女にうつつを抜かしているらしい。滑稽過ぎて笑えてしまう。それでも、会えたとしたら彼女は俺の事で心痛め、昔と変わらず泣いてくれるのだろうか。俺を慕い笑いかけてくれるのだろうか。彼女が笑ってくれるのならば、今までの苦しみが全部消えてしまう様な、そんな気さえする。少女の様なあどけない微笑みで自分を受け入れて欲しいと願うばかりだ。つまるところ俺は全てに拒否されていたとしても、あのお嬢ちゃんだけには許されたいのだろう。どんなに想いを募らせていたところでこんな俺が彼女に会う事は許されるはずもない。それでも俺は…。


だからな、もう良い。良いんだ。

俺は全てに許されなくても。もし最後までお嬢ちゃんに会えなくても。


想いを伝える事が無理でも。彼女が過去の俺だけを覚えていてくれるのなら。良いんだ。


死を迎える瞬間だけを夢見て、俺はあの男に会おう。
それだけがこの上ない苦しみから俺を開放してくれると信じて。

 

 

 




 

ユーリック独白。シリアス一直線。

 

 

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