「…あら?」
何で起き上がれないのかしら。
胸が圧迫される様な息苦しさで目が覚めた。
私は一人仮眠室にて寝ていたはずなのに、誰かの息遣いを感じる。そして、自分ではない誰かの心臓の音。起き上がろうと体を僅かに揺らしてみたが、全く動けない。心臓の音が早まるくらいに、今にも押し潰されそうな体は、明らかに何か乗っているとしか思えなかった。いや、間違いなく誰かが、私の上に重く伸し掛かっている。こんなに暖かい温度が纏わりついているんだもの。何でこんな事態になっているのだろうと、目線を下に移動させれば、見慣れた白衣が目に入った。そして、顔をすぐ横に向けた途端、銀色のふんわりした髪の毛が頬をくすぐる。目にしたどれも私が良く知る人そのもので、正体を確信させるに足りる要素ばかり。
まさにその人は、全体重を私に預け、俯せで寝ている私の上司のロイドさんだった。 ぐったりした体を横たえており、私を押しつぶさんとばかりだ。
「はぁ……」
普通なら有り得ない光景に思わず溜め息を突く。それに伴い胸もとが上下し、乗っかったままぴくりともしない人を持ち上げた。
「ロイドさん、どうしました?」
くしゃりと押し付けた手で彼の後頭部を撫でる。出来るだけ優しく投げ掛けた問いに、すぐに返事はなかった。背中に手を運び、背骨に沿う様にさすると、首元から「気持ち良ぃ〜」と、力ない猫撫で声が返ってくる。その姿は、まるで主人に撫でられ喜ぶ猫の様。 いつも無条件に甘えてくる時はだいたいロイドさんにとって、最悪の事態があったというのが相場だった。何年と繰り返されたきたそれを私は日常として受け止めた。動こうとする気配もない辺り、何より良い証拠。
「あのさ。……ちゅーしても良い?」
「駄目です。と、言いたいところですけど。私が断っても、いつもなさいますよね?」
「あっははは、ごー名ー答ー。さっすが!」とロイドさんが顔を上げ、自慢げに笑った。 やはりそのつもりだったらしい。
「ずっとロイドさんの助手をやってきたんです。分かります。」
にこりとつられて笑顔で言ったら、ロイドさんはしばらく驚いて目をしばたかせた。 両側に手を付いて私の顔をを覗き込むと、一言こういった。
「何それ?あ……新手の回避方法?」
私の言葉にタイミングを失ってしまったらしく、唇をとがらせて、不機嫌そうな顔に変わる。
「いいえ、違います。」
「違うの?じゃあ、何?嫌がらせ?」
変わらないロイドさんの言葉遊びに、私は微笑みで答えた。やっといつもの調子が戻ってきたみたいだ。
「ロイドさん。」
「なんだい?」
目を細め、不機嫌になった人に今回ばかりは仕返しを、静かに口付けを贈る。
きっと彼は驚くだろうとの願いを込めて。
これも特派的日常パート2。でも、甘い。 セシルを布団代わりにするロイドに嫉妬する面々がいたりすると尚よし。