★R211話。モルドレッド活動停止直後。ジノ視点。
「こちら、トリスタン!モルドレッドのカバーに入る!」
嫌に冷静な報告を告げる自分の声が脳裏に木霊する。
『カバーする』だって?馬鹿言うな。本来なら何もかも無視して、安否を確認する為にすっとんで行きたいとこだっていうのに。目の前の強い奴と戦いたいという高揚した衝動を抑えながらも、
攻撃が緩んだモルドレッドへ向かおうとした神虎を足止めに掛った。
「そちらに行かせる訳にはいかないんでね。しばらくお相手願おうかな。」
彼女の――アーニャ・アールストレイムの強さは知っている。他の誰よりも。ナイトオブシックスの称号は決して飾りじゃない事実も。だが、あの停止状態のところを神虎を使いこなしているあの男が一振りでもしたら?簡単な結末にうんざりと息を飲む。それこそ元も子もない。機体の操縦桿を握る手に冷や汗が滲む。ものすごく嫌な感覚だ。判断を鈍らせる雑音を払いのける為に、片手で汗ばんだ額を軽く拭う。暗い未来を想像した。不安や焦り、色々なものが交じり合ってひとつの絶望を生みだす。無駄な方向に攻撃を向けそうになって、慌てて微調整を効かした。
「おいおい……アーニャ。」
口の端を持ち上げ、更に相手への攻撃を激化させる。今、自嘲しているんだろうなっていうのは勿論予想済み。眉間に力が入った。口内に広がる苦々しい思い。
「お前が死ぬとか考させんなよ。」
答えられるなら、一言でいい。その冷ややかで表現しきれない感情に欠けた声を、自分にとっては変わらない安堵を含んだ声を、聞かせてくれればいい。早くしないと、自分を呼ぶ声が涼やかな幻聴までが聞こえてきそうで。淡い期待を持って通信回路を確かめてみるが、応答はなくノイズしか聞こえない。酷く後ろ向きな気持ちを、今すぐ消し去りたかった。幼くして象徴として祀り上げられた天子を救いたい、というあの男も全く理解できないわけじゃない。己の身を挺して主を護る姿に同じ従う者として敬意を払っても構わないくらいだ。
だけどさ、地位とか名誉の前に
「こっちだって譲れない、だろ?」
静かなさざ波に似たあの声を消すものは、いくらだってこの腕でなぎ払ってみせたっていい。紅き血に塗れてようが 深い罪に溺れてようが 偽りの正義を語るものであろうが。
「さてと。スリーの名は伊達じゃないと証明してみせようか。」
相変わらず通信は途切れたままだった。絶対死ぬなとは言えない。ただ出来るだけ死に抗ってくれとは伝えたい。無闇に頼ってくれないのは揺がない信頼だって知ってはいるんだが。
無理すんなよ。ちゃんと生きてろよ。
抗って抗って、これから先の話はそれから。
操縦桿を強く握リ直す。
足を引く躊躇いはもはや不要のものだろう。
------------------------------------------------
表面上、冷静でも内心焦ってれば良いと思ったので。
●戻る