★風邪引き〜セシル編

 

 

 

 

 

 

「あのー……セシルさん?」

「うん、なあに?スザク君。」

 

絶対そうに違いないと、確固たる自信を持って、スザクはセシルに聞いてみた。いつもと同じ畏まった態度でスザクはセシルの横に立っていたが、当の本人は構わずに書類にさらさらと字を綴っていく。

 

「えーと、頭痛いーとか喉痛いーとかありませんか?」

「あら、どうして?」 違うのかとスザクは一瞬焦ったが本人は自覚していないだけかもと再度尋ねる。セシルは何故そんな事を聞かれるのかは全く分かって居ない様だった。 「いや、その体調でも悪いのかと。」

「そんなに元気が無いように見えるかしら、私。」

「仕事しないで何してるのぉー、君達。」 にっこりと満面の笑みを称えたロイドが話し込んでいる二人の間を割って入ってきた。ロイドの不躾な態度にスザクとセシルは二人で苦笑する。 「え、そんなわけじゃ……」

「ロイドさんこそどうしたんですか?」

 

 

 

 

「ろっ、ロイド、さん!お、降ろして…降ろして下さいっ!」

「いーやーだーね。」

「あう、きゃっ」 セシルは悲鳴を上げた。というのも、ロイドに物でも担ぐかのように身体を肩に乗せられて運ばれていたからだ。しかし、移動する足取りにより、振動が生まれセシルの身体をゆらす。 そのせいで驚いて変な声を出してしまったりで、セシルはあまりの恥ずかしさに押し黙るしかなくなってしまった。何故この人目を憚りたくなる様な体勢で、一体自分は何処に連れて行かれてしまうというのだろう。頭が後ろ側にあるので、前が見えない分不安は増大だ。自分を心配してくれた少年も置いてきてしまったしと、ちらりと横目でセシルはいつもと違い怒った風なロイドの横顔を見つめてみた。

 

それがまずかった。 怒りという感情を普段露にしないロイドが眉毛を吊り上げ不機嫌そうなのだ。とても由々しき事態だとセシルは感じた。気まぐれな上司は、自分に有無言わさず何か雑用でも押し付けるのだろうかと益々セシルの不安が募った。

「はぁい、ご到着ぅ〜。」

ロイドはあるドアの前で急停止すると、そそくさと部屋に入っていく。電気がついていないのでどこの部屋かは分からない。中に入ったロイドはふかふかした何かの上とさりとセシルを降ろす。

「仮眠室?」

やっと降ろしてもらった場所は仮眠室のベットだった。きょろきょろと周りを見渡し、現状を飲み込めていないらしい彼女をロイドは睨んだ。

「君が悪いんだよ、無理しちゃってさ。早く言ってくれれば良いものの。」

「何がでしょう…か?」

「顔。」

 

顔?

びしりと自分の顔をロイドに人差し指で指され、セシルは呆けた。項垂れる自分の上司は顔に何かついてますよとでも言いたいのだろうか。まさかと思い、セシルは両手の手平で顔を挟むが、顔には何もついていない。

「顔、真っ赤にしてさぁ。君、分かってる?風邪以外の何物でもないよ、これ。」

「あぁ、そういえば……ふらつくなぁと思いました。でも、大した事ないですよ。」

「はあぁ〜…僕は困るの!そんな状態じゃ仕事出来ないだろうし。ああもう、今日は無理!駄目絶対!安静にするっ!」

「ふふ…ロイドさんたらおかしいですよ。」

「あのーねー……笑い事じゃないよ、誰の所為なの。」

あまりにも仕事が滞るのが残念なのか、項垂れた上司を見て思わずセシルは微笑んだ。

「うふふ、そうですね。すみません。」

「だぁから、今すぐ寝る!布団に入る!病人だって自覚して。」

「はい、お言葉に甘えさせて頂きますね。」

「じゃあ、おーやーすーみーっ!」

「あ。あの書類とか、後頼みますね。」

「こっちはキニシナイの!風邪直すの考えなきゃ、君は。真面目過ぎるのは程々にしてよ。」

 

 

「ところでさぁ〜……」

「何でしょう?」

「風邪早く治すコツ知ってる?」

「薬を飲んで、睡眠を十分に取るとかですよね。」

「ぶっぶーっ。」

「他にうーん…見当も付きませんね。」

「んふっ、なら一応しちゃう?」

「へ、ロイドさんが?」

「まぁ、手っ取り早く治したいならね。」

「どうするんですか?」

「こうするんだよ。」

「ちょっ、ロイドさ…んっ」

「あはっ、ご馳走さま!人にうつしちゃえば簡単簡単。もしも僕が風邪引いたら看病してよねぇ〜」

セシルは呆然とロイドの背中を見送ると、枕へとなだれ込む。

 

「はぁ……これじゃあ余計に熱が上がったかも、よね。」 額に手を当てると僅かに熱が上昇している気がする。それはきっとあの気まぐれな上司のせいだとセシルは毛布の奥に潜り込んだ

 

 

●戻る